キタキツネの子別れについて
キタキツネ・・・・美しく悲しい動物として
大自然の中で、種々の不思議な生き様を繰り広げるのである。
春、まだ浅い頃、交尾期を迎え4~5月に3匹ないし5匹の子ギツネが生まれる。
親ギツネは、生まれてきた子ギツネに対して深い愛情をふりそそぐ。
やがて春が終わり、短い夏が訪れ、8月下旬前後の三日間劇的な子別れの儀式がおこなわれるのである。
子別れ・・・・
親ギツネのはかりしれない、暖かい愛情の中で育まれてきた子ギツネたちが突然親ギツネに突放されるのである。
子ギツネがいつものように巣穴に入ろうとすると、親ギツネは狂ったように、彼らに襲いかかる。子ギツネにとっては思いもよらない出来事である。
すっかり当惑して何度も何度も親ギツネに哀願して巣穴の中に入ろうとする子ギツネたち。
しかし、親ギツネは決して彼らを許しはしない。子ギツネにとって安全で暖かい家ー巣穴から考えられない厳しさで追いやられるのである。
それは子ギツネたちが、新しい自分の領地を自らの力でひらき、そこで力強くいきていかなければならないことを教えようとする親ギツネの愛情のこもった、しかし、悲しくつらい別れの儀式なのである。これほど悲しく、これほどしれつで、これほど厳粛で、これほど愛情豊かな儀式が他にあるだろうか・・・・
子ギツネたちは、親ギツネから離れ、それぞれの力の限りをつくして生きてゆく。しかし、大自然の脅威は彼らに対してあまりにも非情である。あるものは、冬のブリザードの中で食を失って飢え死にし、またあるものは犬をはじめとする天敵に襲われ、また人間の手にかかり死んでゆく。
彼らは十匹のうち一匹ぐらいしか生き残れないという。私たちの周囲を見てみると子は親の愛に甘え、親もまた子を盲愛し、新しい人生の場である就職先にも付き添っていくという。
こうした今の時代に生きる私たちにとって、この子別れの儀式に見る切ないまでの、真摯な親の愛には何か考えさせられるものがあるのではないのでしょうか。